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プロフェッショナル仕事の流儀・キリン飼育の課題(予習篇)

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2017年1月30日の「プロフェッショナル仕事の流儀」は

ネコからゾウ、キリンまで! 動物と向き合うプロたち

73分拡大版のスペシャル放送です。

その中で、秋田県秋田市大森山動物園の飼育員、柴田典弘さんが取り上げられます。

1時間13分の中で、
4名のプロフェッショナルが取り上げられるため、
柴田さんのキリン飼育について、番組では放送しきれないことも多いと思いますので、

この記事では、たぶん、番組でも言及されると思われる、

動物園での動物のハスバンダリートレーニングや
キリン飼育の課題について、

今まで放送された他の番組の内容、書籍、
他園になりますが、福岡県大牟田市動物園の資料などからまとめました。

参考にしていただければ幸いです。



秋田市大森山動物園

場所:秋田県秋田市浜田字潟端154

秋田市大森山動物園は、
千秋公園内にあった秋田市児童動物園を前身とし、
1976年に開園しました。

「地方の小さな動物園」ですが、
動物の生態をできるだけ見せる、行動飼育展示に取り組み、
動物がエサを食べる様子を間接できる「まんまタイム」に人気があります。

雪が多い場所なので、
毎年、12月~2月は基本的に休園で、1月と2月の土日祝日は
「雪の動物園」として、特別開園されるのですが、2016年11月に死亡したコハクチョウ2羽から、
高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N6亜型)が
検出されたため、2016年11月21日~休園となり、雪の動物園も開催されていません。

また、飼育していた一部の鳥類が殺処分となりました。

大森山動物園でのキリン飼育とハズバンダリートレーニングの導入

大森山動物園では、
2011年にオスのジュン(当時18才、飼育下でのキリンの寿命は20~25才とされていますが、
それよりも若い年齢で脚関節の不調からの体調悪化や、突然死をするキリンが少なくありません)

その時キリンの担当だった柴田さんは、
ジュンのお嫁さん候補として飼育されていたメスのリンリン(当時6才)に対して、
ハズバンダリートレーニングによる健康管理をする試みを始めました。

柴田さんは、以前から神経質なキリンに人が直接触れて採血や蹄の手入れをすることが難しい、
ということを問題に感じており、インターネットを通して、
羽村市動物園でキリンにハズバンダリートレーニングをしている竹内振作さんを知り、
ジュンが死亡した後、竹内さんの指導を受けながらリンリンのトレーニングを始めました。

その1年後、リンリンのお婿さん候補として
長野県の茶臼山動物園から移動してきたカンタ(当時2才)にも同様のトレーニングをしています。

プロフェッショナル仕事の流儀 キリン

この経緯は書籍「約束しよう キリンのリンリン」に詳しく書かれています。

ジュニア(小学校中学年くらいからだと思われます)向けの書籍ですが、
動物ライターの森由民さんの取材で、
大人にとっても、動物園動物に対するハズバンダリートレーニングについて知る
きっかけになりうる本です。

どうして「蹄の手入れ」なのか?

蹄を削ることを削蹄、といいます。
家畜馬に対しては、整蹄士さんが定期的に行っています。

キリンなどの蹄のある動物は、野生では1日に何キロも歩いてエサを
探したり、捕食動物からにげたりするために、蹄は自然に削れていきますが、

動物園ではどうしても運動量が少ないために蹄が伸びすぎてしまいがちです。
蹄が伸びすぎると、歩き方がおかしくなり、足の長いキリンはバランスを崩して関節に問題を起こしやすくなります。

キリン 過長蹄

こちらは昨年撮影したある動物園のキリンの蹄です。
やや伸びすぎだと思われます。

キリン 蹄

同じ園の、正常だと思わる個体の蹄。

ですから、ときどき削ってやらなければならないのですが、
全身麻酔をかけなければできない、というのでは
麻酔による体への負担も大きいので、たまにしか行うことができません。

ハズバンダリートレーニングとは?

ここでハズバンダリートレーニングについての説明をしておきます。

ハズバンダリートレーニングは、
行動分析学に基づき、飼育動物の健康管理、心理面での管理を可能とすることを目的にした行動形成
です。

もうすこし具体的には、

笛やクリッカーの音などを合図にして
できたらご褒美のエサを与えたりほめたりすることで
動物に、こちらがやってほしいことに協力してもらうためのトレーニング

で、

できなかったときに怒ったり罰を与えたりはしません。

動物園動物に対するハズバンダリートレーニングは、欧米ではかなり広まっていますが、
日本では、イルカ・アシカなどのトレーニングはかなり高度なものがお粉れていますが、陸上動物で以前からトレーニングを行うことが必須とされてきたのはアジアゾウなどごく一部に限られていました。

私が「約束しようキリンのリンリン」を読んで、ショックだったのは、
2011年まで日本ではキリンに麻酔をかけなければ削蹄(ひずめを削ること)ができなかった、
ということです。

ここ数年で、柴田さんなど先駆的にハズバンダリートレーニングを導入してきた人たちの努力で、
日本の動物園でもハズバンダリートレーニングは普及しつつあります。

福岡県の大牟田市動物園では、全種全頭へのハズバンダリートレーニング適用を目指して、
園全体で取り組んでいます。

参考資料:
大牟田市動物園
2016年12月16日講演資料

http://www.omutazoo.org/databox/161215.pdf

「ペットの王国ワンダランド」での放送

2016年9月4日「ペットの王国ワンダランド」で
全国のキリンの命を救う(秘)トレーニング!?

で、柴田さんのキリンへのハズバンダリートレーニングの
様子が放送され、

今まで本の文章でしか知らなかったキリンのトレーニングの様子を
動画で見ることができました。

リンリンのトレーニングはyoutubeにもアップされています。

ですが、少々(でもないかもしれない)問題だな、と思ったのが
番組の論調が、

現在では、どの動物園でもキリンにハズバンダリートレーニングに
よる健康管理が取り入れられていると受け取られかねないものだったことです。

残念ながら、そうではないのです。

現在でも、麻酔をかけなければ、キリンの削蹄も採血もできない、という
ことはあります。

愛媛県のとべ動物園で、2016年8月にキリンのさくら(メス、11才)が死亡しました。

http://www.tobezoo.com/tobenews/topics/2016/08160117.html

直接の死因は誤嚥性肺炎とされていますが、
さくらが数年間、過長蹄(蹄の伸びすぎ)
による歩行困難で関節変形を起こしていたことも書かれています。

そして、とべでは「自然に折れたり削れたりするまで待つ」という方法だったようです。

人が削る以外の方法はないのか?

キリンの蹄を適正な長さに保つ方法としては、人の手で削る他、

運動場を広くする

床材をザラザラしたものにして、蹄が削れやすくする

などの方法があります。
上野動物園では、火山砂を敷いて、蹄が削れやすくしているとのことです。

個人的には、飼育環境の整備と
必要な時には人の手でも手入れができる方法
の両方の施策が行われているのが望ましいと考えます。

ハズバンダリートレーニングはなかなか広まらないのはなぜか?

いや、少しづつ普及してはきているのですが、
あえて「広まらない」という言い方をしました。

一つには、
環境エンリッチメントなどと同様に、これまで
ハズバンダリートレーニングの導入は、個々の飼育員さんの
努力に負ってきた
、という面が大きいと思います。

大牟田市動物園のように園全体の取り組みとなっていないと
なかなか、行ったトレーニングの成果の評価もできませんし、
継続もしにくいです。

もう一つは、

野生動物の生態の展示、という動物園の目的と
トレーニングが合致しない

という考え方があることです。

特に、生態行動展示をコンセプトとして
打ち出している園に傾向として強くあります。
(実際にはトレーニングしていても来園者に見せないようにしている、と
飼育員さんから聞いたことがあります)

海外でもハズバンダリートレーニングの欠点として、
飼育動物の行動を変えすぎてしまったり、家畜化する、などの
批判があることも事実です。

トレーニングで解決できない問題

またキリンの健康管理を行う上で、
トレーニングでは回避できない問題があります。

それは気候です。

本来、アフリカで暮らしているキリンは日本のような湿度の高い夏、雪が降る冬を経験することはありません。

現在、日本の動物園にいるキリンの多くは、日本や欧米の動物園で生まれた個体なので、
ある程度は日本の気候に適応しているといわれていますが、

欧米の研究では、
キリンの飼育環境は20度以下にするべきではない、という意見もあるそうです。

大森山動物園では、
冬季閉園の他、開園している時でも気温が低い間はキリンは屋内にいることが多いそうですが、

旭山動物園では冬場でも外に出していることがある、など園館によって対応に差があります。

キリンは寒さに弱い動物ですが、

逆に、トナカイなど暑さに弱い動物もいます。

柴田さんはトナカイの担当でもあり、
2016年8月29日にはNHKおはよう日本で、

柴田さんのトナカイ飼育での暑さ対策も取り上げられました。

【夏点描 トナカイよ 泳げ!】
http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2016/08/0829.html

こちらに動画もあります。

http://www3.nhk.or.jp/news/cameramanseye/2016_0829.html

プロフェッショナル仕事の流儀・キリン飼育の課題とは?(予習篇) まとめ

番組では、最近起きたキリンの体調不良への対応を中心に取り上げるようです。
※番組放送後追記
メスのキリン、リンリンの、消化不良が原因と思われる体調不良への対処でした。

日本では、キリンの繁殖実績は少なくはないと思います。

が、若くして死んでしまう個体も多く、飼育頭数は30年前の約半分になってしまいました。

番組を見る人の多くは、特に動物園ファンやキリンファンではなく、
もしかしたら、日本国内にキリンがいなくなってもあまり強い関心はないのかもしれませんが、

動物園では、野生の状態ではなかなか見る機会のない動物をまじかに見て、なぜ、絶滅危惧種になってしまっているのか
考えるきっかけを持てる可能性があり、

また、「一度飼い始めたものは最後まで飼う」という姿勢を子どもたちに見せる場でもあると思うのです。

ですから番組が「日本のキリン」について多くの人が何か考えるきっかけになればいいなと思います。




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